BSであっていた「古代文明への旅」という番組の「北アフリカのローマ都市」という回の中で、チュニジアのマクタールで発見されたという、古代ローマ帝国の時代の碑文が紹介されていた。
ある収穫夫が、自分の人生を振り返って記したものだそうで、古代ローマ時代の北アフリカの属州の農夫の生活をうかがい知ることができる貴重な資料とのことだった。
もちろん、そうでもあるのだろうけれど、簡潔な文章にある立派な人物の人生がこめられていて、とても感動させられた。
碑文の文章は、番組の紹介によれば、以下のものである。
「私は貧しい家に生まれた。
生まれた時からずっと畑を耕して生きてきた。
私の土地も私も、片時も休むことがなかった。
その後、故郷の村を離れ、灼熱の太陽のもと、農作物の種をまいて、
人のために十二年間働いた。
そして、収穫仲間のリーダーとなり、
十一年間、農園労働者たちの先頭に立った。
私は金を貯め、自分の家と農園を持つまでになった。
これまでの苦労が報われ、今は快適に暮らしている。
行政の仕事に就くほどまでに出世もした。
貧しい小作農から、最高位の行政官まで、のしあがったのだ。
男たちよ、正直に生きることを学べ。
人をあざむくことなく生きる者は、栄光につつまれて、死を迎えるのだ。」
全く装飾のない、簡潔な文章である。
文字にすれば、ほんの数行だけれど、その行間に、どれほどのことがあったのか、想像すると胸を打たれるものである。
いつの世にも、こういう立派な人がいたのだなぁと、感心させられた。
帝政ローマというのも、首都の酒池肉林の馬鹿な貴族や市民たちではなく、地方の属州のこういった人たちが支えていたので、長く続いたのだろうと思う。