原田正治『弟を殺した彼と、僕』を読んで

原田正治『弟を殺した彼と、僕』(ポプラ社)を読み終わった。

いわゆる「半田保険金殺人事件」について、被害者の遺族の方が書いた本である。

 

同事件とその犯人だった長谷川敏彦さんについては、大塚公子著『「その日」はいつなのか。―死刑囚長谷川敏彦の叫び』(角川文庫)という本もある。

ただ、そちらはあくまで第三者が書いた本だったのに対し、この本は被害者遺族の当事者の方の本だけに、とても重たい、しかし、なんといえばいいのか、適切な表現かはわからないが、感動させられる本だった。

おそらく、著者の原田さんが率直に、赤裸々に、自分の思いを述べておられるから胸打たれるのだと思う。

 

著者の原田さんは、弟さんを殺害された。

はじめは犯人の長谷川さんを憎み抜くが、さまざまな出来事や時の経つうちに、長谷川さんと手紙のやりとりをするようになり、そしてついに面会する。

また、ひょんなきっかけから、死刑廃止運動にかかわるようになる。

そのことを、著者はみずから「人間のわざを超えた瞬間」(118頁)があったと述べているが、たしかに読んでいてそのように感じさせられた。

 

著者の原田さんは、長谷川さんに生きて償って欲しいと思うようになり、また、実際に会って話がしたい、そのことを続けたいと思い、長谷川さんの死刑に反対し、法務大臣にもその要請をする。

しかし、ある時、唐突に長谷川さんは死刑執行されてしまう。

被害者の感情を口実に死刑を正当化するのはおかしいし、そんなことをしてはならないと、この本を読んでいて思わずにはいられなかった。

 

また、この本を読んで、原田さんとその御家族の苦労、また長谷川さんの御家族の悲劇を読んで、決して人を殺してはならないとあらためて思わずにはいられなかった。

また、死刑も避けた方が良いのではないかと考えさせられた。

 

「「赦す、赦さない」も人間の掌中に置いてはいけない。」(256頁)という原田さんの言葉は本当に重い、大切な言葉と思った。

 

それにしても、著者の原田さんの苦労ははかりしれない。

当初は交通事故として処理され、一年数カ月経ってから殺人事件だったと判明し、保険会社から交通事故として最初に支払われた千四百万円の保険金を返還してくれと言われ、四百万円分だけ免除されたが、結局一千万円分は他から借金などしてなんとか工面し返還し、その後その借金の返済のため随分苦労したこと。

のちに死刑反対を実名でメディアに出て訴えたところ、無言のいたずら電話のいやがらせを随分受けたこと。

などなどを読むと、どうして被害者の遺族がこんな苦労をこの上しなければならなかったのかと、なんともやるせない気持ちになった。

 

犯罪被害者の感情や救済について、また、死刑囚との面会について、死刑制度について、考えさせられる貴重な一冊と思う。

少なくとも、被害者遺族の感情を口実に、実際に被害者の遺族の気持ちに具体的に寄り添うことなど何もしないのに、死刑制度を支持したり主張したりするのは、大きな間違いではないかと、この本を読んで思わざるを得なかった。

 

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